鉄道趣味は割と昔からポピュラーな趣味ですが、近年では趣味活動にのめり込むあまり、他の利用客や関係者に迷惑をかけるような事例がメディアでよく取り沙汰されています。特に「迷惑撮り鉄」というキーワードはテレビで聞くことも出てきました。
もちろん、こうした残念な事例は一部の自己中心的な人が起こすことが多いのですが、そもそもルールや慣習を知らないために悪意なく迷惑をかけてしまうことも十分ありえます。鉄道趣味の場合は、趣味のフィールドが公共空間であるためとりわけリスクが高そうです。
そのような趣味活動のマナーが問題になる中で、面白い取り組みの事例があったので紹介してみたいと思います。
カメラメーカーによるアプローチ
今回紹介する取り組みは、カメラメーカー「キヤノン」の「鉄道撮影のマナーブック」です。冊子になっていて、12ページの簡潔な構成で鉄道写真を撮影するためのマナーが紹介されています。
人によっては「こんなの当たり前でしょ!馬鹿にしてるのか!」と言われそうな初歩的な内容がほとんどですが、優しく押し付けないような口調で、わかりやすく書かれていることが特徴です。
撮影者の視点に立ったマナーブック
文中で取り上げられている7つのマナーを引用します。マナーやルールの周知は駅などでも見かけるようになりましたが、それらとは異なり撮影者の視点に立った上で紹介されているのが特徴です。
- ちゃんとあいさつをして、気持ちよく撮影をはじめよう。
- 列車の運行と撮影者の安全を最優先に考えて撮影しよう。
- 撮影して良い場所か確認してから撮影しよう。
- 三脚などの機材の使用が禁止されていないか確認しよう。
- ストロボはOFFにしよう。昔から守られている暗黙のルールです。
- 駅利用者や地元の人の顔が写る場合はひと声かけよう。
- ゴミは捨てずに持ち帰り、気持ち良く撮影を終えましょう。
例えば、7番目の内容の解説として「美しい気持ちを持つことも、美しい写真を撮る秘訣です」と書かれています。カメラメーカーならではの素晴らしい解説ですね。
道具の作り手がマナーを訴える意義
ここ最近、UXデザイン(User Experience Design)という言葉が世の中に広がりました。それと同時に、作り手は使い手がどんな嬉しい体験ができるかじっくり考えてものづくりをするようになりました。
「マナー」というと、守らなければいけない面倒なことのような印象が少なからずあると思います。そういう意味で、嬉しい体験とは一見離れた要素に見えるかもしれません。
技術の進歩によりあらゆる製品が手軽に使えるようになっていくこの時代に、取扱説明書で書かれる禁止事項とは異なる、製品を気持ちよく使うためのマナーブックをメーカーがパブリッシュすること。それは使い手やその周囲の人を作り手自ら訴えることに意義があると思います。
なんか偉そうな感じになってしまいましたが、こうした取り組みが広がり、これをきっかけに使い手側の意識も変わってくるといいなと思いました。おわり。